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山尾三省『聖老人』(改訂仕掛版2) [山尾三省]


ひとりの男が
まことの歌を胸に探り
この世の究極の山へ登り入った
山は深く
雨さえも降り
実は
淋しい登山であった
同伴者がいなくはなかったが
真の同伴者は
己一人
まことの歌をうたうものでしかなかった
それがまことの歌なのか
まことらしき歌なのか
明確でないところに
この登山の困難があった

びろう葉帽子の下で「歌のまこと」より抜粋 

<所感>
本日は山尾三省さんの『聖老人』について書こうと思ったのですが引用した詩の一節が心に残り
引用しました。
『聖老人』は81年に書かれた山尾三省さんの自伝的エッセイです。
山尾さんが屋久島に移住されたのが77年ですから移住後初期の頃の執筆になるのかな?。
三省さんの詩の一節に心を奪われながらその実、屋久島移住前のイデオロギー色濃厚な三省さんには少々近寄り難い印象があります。
もっともイデオロギーの何たるかさえボクは全くの無頓着なのですが。
ボクが学生だった90年代は、高度成長期、バブル期が終焉し終身雇用という言葉が死語と化し一方で「リストラ」という用語が流行、定着した時代でした。
ボクはこの時代を愛しました。
なぜなら例えば60年代の若者が社会を変えるためにイデオロギーに走ったのと同じようにボクらは現実世界でビジネスとして大人たち、或いは古いものを公然とやっつける事ができたのですから。
しかしこの生き方にも激しく行き詰まりを感じ始めているのが今のボクです。

山尾さんは「聖老人」でご自身が『部族』の活動からインドへの巡礼(求道)の旅、そして屋久島定住に至る思索を記されています。
『部族』についての解説に「コミューン活動」という単語を目にします。
これにはいささか違和感を覚えます。
確かに客観的に見ればコミューン(共同体)活動に違いないのですが、参加した方々の心の深い部分では個々に独立していたような、仲間との共同生活ではあったけれども同時に非常な孤独感を伴う実験だったように思われます。
山尾さんの語る精神世界については深く語りませんが、山尾さんが一貫して語り続けたこと、それは「現代社会はひたすら理知的であることに価値を置き過ぎている」という事ではないかと。
「明日はもっと賢くなろう、能率的になろう」という事に終始しすぎて大切な「今」を
あまりに切り捨てすぎているのではないか。「今」を喜ぶ術を失ったのが現代のボクたちなのかな。そんな風にも思っています。

『海人の伝統』(中央公論社)という本を読んでいます。
tenkoさんから紹介していただき入手したのですが、縄文期の日本の住民はシベリア経由のグループ、6000年前まで地続きだった中国からのグループ、南方からのグループが海や川を媒介として緩やかなネットワークを構築していたんですね。
我が瀬戸内海においてはこの緩やかなネットワークが17世紀に至るまで存続し痕跡は現在も神社や祭り、伝承という形で残存しているとボクは考えています。
例えば藤原純友の乱は瀬戸内海の海上生活者の反乱と言えるし、戦国時代村上武吉などの複数の頭目が率いた村上水軍(瀬戸内水軍)は藤原純友の乱に何らかの形で関係した人々の末裔だともいえます。
今は倉敷市に編入されてしまったけれど古事記の天地創造の物語にも登場する児島の神社に祀られる祭神は何となく勇壮な感じのするカミでお祭りもやはり何とはなしに勇壮な感じがする。感じがするというだけの事でこれのルーツを調査した事なんて一度もないのですが。

こんな事を考えています。
縄文時代(なんかこの呼称は画一化し過ぎていて好きになれませんが)の民族構成は一集落一部族に近い形で生活形態、習俗、価値観etcバラエティに富んだ時代だったんだろうなと妄想し、互いの違いを越えてうまくやっていっていた時代だと思うのです(おそらく縄文中期頃までは)。
互いに利害が対立するほどには物理的に繋がりがなかったからでもあるのですがこの時代は意識せずとも『孤』を確保することは容易だった。
現代は『孤』を確保するというのは随分意識的な作業になります。

山尾三省知らずのボクが抱く印象もしくは惹かれる部分は『孤』を大切にした人なんだなぁ。という点です。この点についてはあこがれと言ってもいいかもしれません。
でもそれ以外の部分はボクにとっては異質と感じる部分が多くて。
じゃ、どこがどう異質なのかという事についてはじっくりと山尾さんの著作を読んでから書きたいと思います。
異質な者とワザワザ付き合うなんて馬鹿じゃないかと言われそうですが自分とは異なる視点を持つ人がボクは何となく好きなのです。

再び引用です。
___________________
「時間の旅というのはちょっと今忘れられていますよね。
旅が空間の旅になってしまったというのが、近代ないし現代の特徴かもしれませんね。
(中略)・・・・・
仲間はみんな若いですし、空間の旅もしたいわけですよ。
でもやはり人によってそれもできない人もいる。
あまり空間的にあちこち動くのが好きではない、そういう人は苦しむわけですよ。
自分は旅に出られない、自分は一体旅をしているんだろ言うかという苦しみ、悩みを持ってしまうわけです。
(中略)・・・・・
ぼくは当時すでに子供がいて、育てなければいけないこともあって出て行けないわけです。
そのときに、旅というのは空間の旅だけではない、人生という旅、生きるという旅があるんだという事に気がつきましたね。」
『瑠璃の森に棲む鳥について』立松和平、山尾三省対談集(文芸社)より
___________________
時間の旅という考え方の概要はなんとなく分かります。
90年代バブル崩壊後のセチガライ嵐のような世の中、業界を生き抜いてきたんですから。(笑)
いや、それは旅と言うよりも冒険と言うべきか・・・。
台風の暴風雨のキツイ部分を選ぶようにしてただ一心不乱に歩いてきたよという印象しかボクには残っておらんのです。それはそれで面白かったけど。(笑)
いろんな人や生き方を見てきたけどそれは経験したというだけの事だったんですね。微妙に変化し続ける自分の思いに全く無頓着であったようにも思うし思索の時間をもっと大切にしてやりたいとも思います。

何冊か三省さんの本を購入し最初に読むべき本だなと思い『聖老人』を手にとっています。
タイトルの『聖老人』とは屋久島の縄文杉のことだそうです。
この本にはコミューン活動「部族」のこと、インドへの巡礼の旅のこと、屋久島移住にいたる経緯と移住後の所感、亡くなられた先妻順子さんのことなどについて書かれています。

うかつ者さんから「秋の夜長は読書」というお言葉を頂きましたが、今年の秋の読書は山尾三省著作三昧になろうかと思います。
相当じっくり読む必要がありそうです。

<山尾三省さんのプロフィール>
山尾三省、1938年東京生まれ。早稲田大学西洋哲学科を中退し、1960年代の後半にサカキ・ナナオや長沢哲夫らとともに、社会変革を志すコミューン活動「部族」をはじめる。1973年、家族と、インド、ネパールへ1年間の巡礼の旅に出る。1977年、屋久島の廃村に一家で移住。この20年間、白川山の里づくりをはじめ、田畑を耕し、詩の創作を中心とする執筆活動の日々をここで送っている。最近(1997年春)、旧友のゲーリー・スナイダーとシエラネバダのゲーリーの家で再会した。ゲーリーとは、1966年に京都で禅の修行をしていた彼と会ったのが最初で、そのとき、ふたりは1週間かけて、修験道の山として知られる大峰山を縦走している。ゲーリーがアメリカに戻り、三省はインドへ、そして屋久島へ移住したため、長い間交流がとだえていた。三省は、最近のゲーリーのテーマがバイオリージョナリズム(生命地域主義)であることを知り、自分が20年来考え続けてきた、「地球即地域、地域即地球」というコンセプトとあまりに近いことに驚いているという。
2001年8月28日、屋久島にて亡くなる。
引用:葉っぱの坑夫大黒和恵さんのサイトより

 ⇒風のおひるね
   画像を拝借しました。個人・商用で利用できる素材サイトです。

※なーんか中途半端でボンヤリとした文章になってきています。
本当は仕上げたいのですがこれから遊びに行きます。
なぜって昨日空がやたら青かったからです。
そろそろ勉強始めないとなぁ。


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コメント 4

Alice

すごい!
何やらわからんが、すごい。
貴方は賢い人ですね。
by Alice (2005-08-26 23:53) 

tyokyori-sousyano-kodoku

すごいいい写真です。
そして、とてもいい詩ですね。
まことの歌かどうか分からない事が、一番辛い。
そのとおりです。
by tyokyori-sousyano-kodoku (2005-08-27 09:25) 

binten

うかつ者さん

青年期の山尾さんは試行錯誤、新幹線のようなめまぐるしさで行動ししています。
一方で壮年期からは一歩一歩足元を確かて登山するかのように内面的な熟度を増しているようにボクには思えます。

>まことの歌かどうか分からない事が、一番辛い。
敢えて無難なコースを選ばない人がボクは好きです。
by binten (2005-08-28 05:05) 

binten

Aliceさん

コメントありがとうございました。

>貴方は賢い人ですね
ご冗談を

そういえば昨夜谷村さんが24時間テレビで歌われてましたね。
by binten (2005-08-28 07:23) 

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